ウサギの脊髄損傷
当院には、一般社団法人 日本コンパニオンラビット協会(JCRA : Japan companion rabbit association)が認定している「ウサギマスター検定1級」の獣医師(院長 井尻)がおりまして、日々うさぎの診察をしております。
脊髄を損傷してしまったウサギさんが来院されたため、今回はこの事について。
うさぎは骨が軽く、脆いため、爪切り、シャンプー、ブラッシングなどの時に簡単に背骨を骨折してしまうことがあります。
後足の筋肉がとても発達していて、押さえつけられた状態の時に逃げ出そうとして後ろ足で跳ねようとすると、自分の力で背骨を骨折してしまうケースがあります。背骨が折れてしまうと、その中を走っている脊髄もダメージを受けてしまい、後ろ足が完全に麻痺して動かなくなってしまいます。爪切りやブラッシングなどを行う際は、床の上で行い(台の上から飛び降りたりすると危ないため)、無理に押さえつけたりせず、暴れそうになったら手の力を緩めなければなりません。
↑CTスキャンでみると…、七番目の腰椎が骨折していました。
脊髄損傷になったとしても、毎日圧迫排尿をするなど介護を受けて幸せに暮らしているウサギさんもいるのですが、事故にはお気をつけください。
ウサギの脊髄損傷は、
骨折や圧迫によって脊髄が損傷し、運動機能や感覚に影響を与える状態です。ウサギは後肢の筋肉が非常に発達しており、驚いた際や不安定な姿勢で暴れたときに、脊髄を損傷するリスクが高くなります。脊髄損傷は、うさぎにとって生活の質に重大な影響を与えるため、早期診断と適切なケアが重要です。
1. 脊髄損傷の原因
ウサギの脊髄損傷は主に以下の原因で発生します。
① 落下事故
高い位置からの落下や不安定な場所からのジャンプが原因で発生することがあります。
骨が細く、脊椎の骨折につながりやすいです。
② 抱き上げ時の暴れ
抱き上げられた際、驚いて突然暴れることで、強い力がかかり脊椎を損傷することがあります。
後肢の筋肉が強いため、脊髄が伸ばされたり圧迫されることがあります。
③ 交通事故や衝突
交通事故や重い物が当たるなどの強い外力が原因で損傷する場合もあります。
2. 脊髄損傷の症状
脊髄損傷の症状は、損傷の部位や程度によって異なります。
軽度の場合
一時的なふらつきや後肢の力が弱くなる
歩行がぎこちなくなる
触ったときに痛みを感じる
中等度の場合
後肢の麻痺:動きが制限される
反射の低下:痛みの反応や伸張反射が弱くなる
重度の場合
完全な後肢麻痺:後肢が全く動かなくなる
尿失禁や便失禁:膀胱や直腸のコントロールができなくなる
尾の麻痺:尾が動かなくなる
寝たきり状態:前肢のみで体を引きずるようになる
3. 診断方法
獣医師による詳細な診断が必要です。
① 触診と神経学的検査
触診によって痛みの箇所や、反射反応などを確認し、損傷の程度を確認します。
② レントゲン検査
骨折の有無や脊椎の異常を確認するためにレントゲンを撮影します。ただし、レントゲンでは脊髄そのものは確認できません。
③ CT検査・MRI検査
脊髄損傷の詳しい位置や神経の損傷状態を確認するため、CTやMRIが使用されることもあります。
4. 治療方法
脊髄損傷の治療方法は、損傷の重症度に応じて異なります。軽度の場合は安静とサポートで回復が見込めることもありますが、重度の場合は慎重な対応が求められます。
① 安静管理
ケージレスト:動き回らないように狭めのケージに入れ、2~4週間の安静期間を設けます。
ウサギは非常に敏感で、無理に動かすと再度損傷を引き起こす可能性があるため、ストレスの少ない静かな環境で安静に保ちます。
② 薬物療法
鎮痛剤:痛みを和らげるために鎮痛剤を使用します。
抗炎症薬(ステロイドやNSAIDs):炎症を抑え、損傷の拡大を防ぎます。
筋弛緩剤:筋肉のけいれんや緊張を緩和します。
③ 理学療法(リハビリテーション)
軽いマッサージ:血流改善を目的として、後肢や腰部に軽いマッサージを行います。
温熱療法:温かいタオルなどで筋肉を温め、痛みの軽減を図ります。
リハビリ運動:獣医師の指導のもと、軽いストレッチなどの運動療法を行うこともあります。
④ 生活サポート
排尿・排便の補助:重度の脊髄損傷の場合、自力で排泄できないことがあります。膀胱を圧迫することで排尿を補助します。
床ずれ予防:長期間寝たきりの場合、床ずれが発生するリスクがあるため、柔らかいクッションやマットを使用します。
5. 予後と生活の質の改善
脊髄損傷の回復は損傷の程度に依存しますが、完全な麻痺が生じた場合には回復が難しいことが多いです。軽度から中程度の損傷であれば、安静とサポートで改善が見込まれるケースもあります。
生活の質を改善するための方法
車椅子や補助具:後肢が完全に麻痺している場合、車椅子や補助具を使用することで移動ができるようになります。
生活環境の工夫:滑りにくい床材、ケージ内の段差を減らすなど、日常生活での負担を軽減します。
リハビリの継続:軽度の麻痺であれば、リハビリを続けることで機能が徐々に回復することがあります。
6. 予防策
ウサギの脊髄損傷は、抱き方や生活環境を工夫することで予防することが可能です。
正しい抱き方:背中や後肢をしっかり支えるように抱き、急な動きで暴れるのを防ぎます。
高い場所に上げない:ウサギを高い場所に置かないようにし、落下事故を防ぎます。
驚かせない:急な音や動きで驚くと、ウサギが突然跳び跳ねてケガをすることがあるため、静かな環境を整えることが大切です。
まとめ
ウサギの脊髄損傷は深刻な状態を引き起こすことがあるため、事故を防ぎ、適切な抱き方や環境管理が重要です。損傷が発生した場合、早急に診察を受けて治療を開始し、適切なリハビリや生活サポートを行うことで、ウサギの生活の質を少しでも高めることが可能です。