犬の症例

超小型犬の骨折をギプスで治す方法について

前足の骨折をギプス固定で治療されているワンちゃんが来院されました。

活動性が高い元気なワンちゃんで、前足を骨折してしまったようです。

 

骨折した直後に一度当院へ来院して頂いており、「小型犬の前足の骨折を治すためには手術が必要で、ギプス固定は癒合不全になるリスクが高いとされているのでお勧めは出来ない」旨をお話させて頂いていたのですが、「前足の骨折はギプス固定で治せる」というインターネットサイトを目にして、前足の骨折をギプス固定で治療されている動物病院さまを探して受診されているとのこと。

ただ、残念なことにギプス固定で3か月間治療されているものの足が着かないとのことでした。

 

飼い主さまによると、普通のギプス固定では無く、新しく開発されたという特殊?なギプス固定をしてもらっているようでした。3か月間くらいギプス固定で治療を行っているものの、いつまで経っても足がほとんど地面に着かなくて治らない、という状況で当院へ再び来院されたのでした。

 

当院にてレントゲン撮影をさせていただいたところ、骨折した箇所は骨が癒合せず溶けて無くなりつつあるという状態でした。

骨折時から3か月も経過して骨がほとんど癒合していないのは何かしら問題が生じている可能性が高いです。

 

 

これは「癒合不全」や「癒合遅延」と呼ばれる状況で、折れた骨同士が離れた状態であったり、固定が不十分で骨同士に動揺が見られたり、内部で細菌に感染していることなどが原因で骨同士の融合が起きない骨折の合併症の1つです。

 

ギプスでの固定は人の骨折でも行われているように、手術をせず簡易に治療ができるのがメリットです。

犬でも完全に折れていない骨折(ヒビ)や、骨折の変位が少ない、橈骨、尺骨の片方が折れずに残っている場合等には良い治療の選択肢になります。

逆にデメリットとしては、骨が完全に折れて変位している場合には骨の向きが捻じれて固定化されてしまったり、斜めに固定されてしまったり、骨片間に動揺があるため癒合不全が生じたりすることがあることが挙げられます。

 

特に今回の症例のような超小型犬の前足の骨折では、ギプス固定を行った際に癒合不全が多く発生するといわれており、ある意味、正確に固定して治すのは、プレート法よりもむしろギプス固定の方が難易度が高いかもしれません。

「ただ骨が癒合すれば良い」訳ではなく、骨の向きや長さ、角度を正しい位置に合わせて正確に骨を固定して後遺症が出ないように、正常な機能を取り戻すことが出来るように、当院ではプレート法を採用して治療するケースが多くなっています。

この子の場合このままでは骨が治らない事が予想されました。

現在受診されている動物病院さまに今後の治療について相談されることをお勧めしましたが、飼主さまの強いご希望で当院にて骨を整復固定する手術を行うことになりました。

↑二枚のプレートを設置して固定しました

 

今回も海外から取り寄せた特殊なチタン製のプレートシステムを使い整復を行っています。

このプレートは通常使われているステンレスのものよりも柔らかく癒合不全が起こりにくいといわれています。当院では癒合不全症例を含めて数多くの骨折症例にこのプレートシステムを用いて治療を行ってきましたが、幸いなことに今までに治療させて頂いた症例は全例問題なく骨癒合しています。

 

最後に…。

超小型犬の橈尺骨骨折(前足の骨折)の治療は技術的にとても難しいと言われています。特にギプス固定はコストが安くて簡単に施術できるメリットがある反面、ある意味施術が難しく、癒合不全に陥ってしまうリスクが高いといわれており、安易にギプス固定を選択するのは注意が必要です。

 

ただ、ギプス固定法全てが問題であるということでは無く、当院でも橈骨、尺骨の2本で構成される前足の骨のうち1本だけの骨折で変位が無ければギプス固定を選択したり、骨が完全に折れておらずヒビだけだったり、コスト面の制約がある場合はギプス固定(ギプス固定法は適用範囲がとても狭いので症例を選ぶ必要があります)を選択することもあります。

 

「手術をせずともギプス固定で治る」と言われると、そちらに頼りたくなる飼い主さまの気持ちも理解できます。

骨折で受診された際に動物病院でギプス固定を選択される場合には、動物病院の先生に、リスクは無いのか、癒合不全にならないか、デメリットは無いのかなどをお聞きして、相談して、飼い主さまご自身でよく考えて判断されることをお勧めします。