SUBシステムについて

適応症:尿管結石による尿管閉塞、水腎症など

尿管閉塞に対する最新の治療法です。
この病気ではSUBの他、尿管切開による手術、尿管内ステントなどの治療も実施されます。SUBの利点としてその他の治療法と比較して処置時間が短く、動物に対する麻酔・手術負担が少ないことや尿管閉塞の再発のリスクが低いことが挙げられます。尿管閉塞は時間が経つと腎障害が進行してしまうため、できる限り早期の治療が大切です。

SUBシステム
SUBシステム

猫のSUBシステム(Subcutaneous Ureteral Bypass System:皮下尿管バイパスシステム)

尿管結石(尿を産生する腎臓と膀胱の間にある尿管が尿石で閉塞)ができてしまうと、それによって尿が流れなくなってしまうため水腎症(尿が腎臓から流れないため、腎臓が拡張)が起こってきます。そのまま放置すると、腎臓へのダメージが続いてしまい回復せずに腎不全に陥ってしまうため、尿管に石が詰まってしまったら緊急で治療しないといけません。

こうした尿管結石は食餌の影響のためなのか特に猫ちゃんで近年増えてきています。

動物病院の血液検査で「慢性腎不全」と診断されて治療されている猫ちゃんの中には、実際は尿管結石が原因の子も多くいるのではないかと考えられており、血液検査で腎臓の数値が高い場合、尿管結石の有無を念のため確認した方が良いと考えられます(尿管結石は血液検査だけでは慢性腎不全と判別できず診断できません)。尿管結石は獣医師にもあまり認識されていない病気のために見過ごされてしまう可能性もあるため、念のため血液検査だけではなくX線検査やエコー検査もした方が良いと思われます。

尿管結石の治療法は以下の通りいくつか報告されています。


1、内科管理・治療

治療内容

利尿薬、マンニトール、α遮断薬など

治療成績

在院予後:(1週間以内):退院前に33%が死亡

短期予後:(1週間~1ヶ月):87%が腎機能が回復せず

長期予後:(1か月以上):退院したうちの30%で腎数値が改善

 

上記のデータから内科的治療での治療がなかなか難しいことが分かります。

 


2、尿管結石を手術で摘出

治療内容

尿管を切開し尿管結石を摘出

治療成績

合併症

尿漏出:6~15%

術後腹水貯留:34%

 

在院予後:(1週間以内):7%は閉塞の持続、17%は腎機能回復せず、13%は2回目の手術が必要、死亡率21%

短期予後:(1週間~1ヶ月):17%が腎機能が回復せず死亡率25%

長期予後:(1か月以上):再閉塞:一年以内に40%、死亡率50%

 

1年以内に50%が死亡するなど手術をしたとしてもなかなか治療が難しいということが分かります。尿管は細いため尿が漏れないように縫合するのも手術自体が難しいです。尿管を切開して原因の石を摘出しても、再度新しくできた石が詰まる可能性が髙いです。

 


3、ステント治療

治療内容

腎臓と膀胱の間の尿管に「ステント」という細いストローみないな管を入れておく方法

治療成績

合併症

ガイドワイヤーによる尿管穿孔:17%

尿管切開が必要であった時の尿漏出:6.7%

ステント通過時の尿管断裂:3.8%

 

在院予後:(1週間以内):6%は膵炎、5%は腎機能回復せず、死亡率7.5%

短期予後:(1週間~1ヶ月):25%が食欲不振、頻尿が10%、ステントの変位が3%

長期予後:(1か月以上):頻尿38%、再閉塞(3.5年以上)19~26%

 

尿管を切開して尿石を摘出するよりも成績は改善されていますが、再閉塞の問題などがあり、必ずしも予後は良くなく簡単な手術ではありません。

 


4、SUBシステム(皮下尿管バイパスシステム)

治療内容

SUBシステムを体内に設置して腎臓と膀胱の間を管で接続する

治療成績

合併症

カテーテルの折れ曲がり:3.5%

設置できず:1%以下

在院予後:(1週間以内):システムの閉塞2%以下、3%は腎機能回復せず、死亡率5.8%

短期予後:(1週間~1ヶ月):<25%が一時的食欲不振、頻尿2%、漿液腫1%

長期予後:(1か月以上):術後感染15%、再閉塞18%、頻尿<2%

 

完全ではありませんが、従来の方法に比較して合併症の確率は低くなっています。

手術後も3~6か月おきにSUBシステムの管を洗浄して維持管理する必要があります。

最新のシステムのため(開発されて7、8年程度)、どのくらい問題なく長期間管理ができるのか正確なデータはまだありません。

 


SUBシステムはアメリカで開発されたシステムで、日本ではまだあまり普及していない尿管閉塞に対する最新の治療法です。
SUBの利点としてその他の治療法と比較して処置時間が短く、動物に対する麻酔・手術負担が少ないことや尿管閉塞の再発のリスクが低いことが挙げられます。尿管閉塞は時間が経つと腎障害が進行してしまうため、できる限り早期の治療が大切です。

当院での治療例

↑透視下で造影検査を入れながらカテーテルを腎臓に設置していきます。Cアーム等の透視装置で見ながら慎重に手技を進めていきます。

 

↑SUBシステムが設置できました

 

術後には水腎症になって大きくなっていた腎臓のサイズが通常サイズに戻り、腎盂の拡張が無くなります。

術後は定期的に(3か月おき)にSUBシステム内部を専用の洗浄液で洗浄して、尿管結石の再発によりSUBシステムが閉塞するのを予防していきます。