骨折について

はじめに

動物も人間と同じように骨折や脱臼をします。

原因として交通事故などの大きな力よるものもありますが、日本では小型犬が多いため、ソファや抱っこしている所からの落下といった比較的小さな外力でも生じることが多くなっています。

骨折や脱臼の治療は、ギプスなど外固定の処置のみで済むケースもありますが、ほとんどのケースは完全に骨折したり、脱臼を生じますので、手術が必要となります。

当院における骨折治療は、動物の状態、骨折の発生部位や分類などを考慮して「髄内ピン」「骨プレート」「創外固定器」を単独もしくは組み合わせて使用することで適切な固定力を得られるように施術しています。

骨折の診察・治療の流れ

問診→整形外科的検査→レントゲン検査(必要に応じて血液検査・超音波検査・CT検査)→診断→治療

  • 問診

動物の種類、年齢、体重、性別、飼育環境、既往歴、現病歴などをお伺いします。

  • 整形外科的検査

歩き方を見た後、触診をおこない痛みの程度やその部位を特定します。また、整形外科疾患と混同しやすい神経疾患や自己免疫疾患との鑑別を行います。

  • レントゲン検査

主に骨の評価を行い、軟部組織の腫脹がないか等を検査します。

  • 超音波検査

靭帯や腱などの評価を行います。

  • 診断

確定診断を出せることもあれば、特殊検査の追加や試験的治療、経過観察などを指示する場合があります。

  • 治療

飼い主様と相談して外科手術もしくはギプスなど内科的管理にて治療を行います。

 

治療法について

  • 髄内ピン

0.8mm-5.0mmのステンレス製のピンを骨髄内に刺入して固定を行います。

長管骨だけでなく、若齢動物の骨盤骨折にも使用することがあります。

  • 骨プレート

ステンレス製もしくはチタン製の金属の板(プレート)と骨ネジ(スクリュー)を使用して固定を行います。

  • 創外固定器

ネジ山があるピンを骨に刺入し、皮膚の外で連結バーとクランプを使用して固定を行います。

  • 髄内ピンと骨プレートの併用(プレート・ロッド法)
  • 髄内ピンと創外固定器の併用法

 

手術の流れ(プレート法の場合)

↑レントゲン画像。橈骨、尺骨とも骨折しています。

体重が1kg台では骨の厚みが3mm程度しかないため繊細な手術が必要になります。

↑麻酔を掛けた後、バリカンで毛刈りをします。人と違い動物は被毛があるので毛刈りは必須です。

↑触診をすると骨幹部の骨折部で曲がるのが分かります。

↑前足をテープで上に吊り、消毒していきます。

茶色になっているのは手術用のイソジン液で消毒しているためです。

↑覆布やプラスチックドレープを掛けた後、皮膚を切開し、骨折部にアプローチします。

骨の断端同士を見つけて慎重に整復します。

↑開創器などの器具で術創を開き、鉗子で適切なサイズのプレートを仮固定します。

ドリルで骨に孔をあけ、プレートと骨をスクリューで固定します。

↑皮膚を縫合して手術終了です。

↑手術後の様子

↑プレートで骨折部が整復固定できました。この後、2~3か月程度で骨癒合が完了します。

 

最後に

骨折の手術は経験と勘が求められる手術であり、骨折の治療するには特殊で専門的な知識や技術が求められるため、どの動物病院でも治療や手術をしているわけではありません。

垂水オアシス動物病院では整形外科を得意としておりまして、AO(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen)という骨折治療を研究しているスイスを拠点とする国際的な研究財団AOVETが開催する整形外科研修をマスターコース(上級)まで全て修了しています。

Small Animal Masters Course(マスターコース:上級)修了

​​​​​

また、アメリカなどの海外へ研修に何度も渡航して専門技術を習得し、今までに数多くの骨折症例の診断・治療や手術の執刀をして経験を積んできました。

他院様を受診され骨折治療の後に癒合不全に陥ってしまいお困りの場合であっても、お役に立てるかもしれませんのでお問い合わせ下さい(癒合不全症例の再手術の実績は多くあります)。

骨折の治療・手術をご希望の場合は、これまでの症状や経過などが分かるようにして頂いたうえでご来院ください。

整形外科疾患の紹介について(動物病院・獣医師の先生へ)

当院は整形外科に力をいれており、橈尺骨骨折(橈尺骨骨折の再手術症例 含む)、大腿骨骨折、脛骨骨折、上腕骨骨折、骨盤骨折などの各種骨折や膝蓋骨脱臼などの脱臼、前十字靭帯断裂時のTPLOなど、整形外科疾患の紹介をお引き受けしています。骨折などの治療が必要な患者様の中で、大阪まで通院が難しい飼い主さまや、神戸市内で手術をご希望の飼い主さまがいらっしゃいましたらお役に立ちたいと考えております。ご紹介頂く際は、飼い主様に直接お話していただいて来院していただくか、お電話もしくはメールにてお問い合わせ下さい。
なお、他院様から整形外科疾患でご紹介いただいた場合には、治療経過をご報告させていただき、治療終了後は主治医の先生を引き続き受診するように飼い主さまにお伝えさせて頂きます。

電話:078-707-2525 午前9時~12時 17時~20時 (水曜・日祝午後休診)

当院での骨折治療例

  • 橈尺骨骨折

↑手術前(橈尺骨が骨折しています)

↑手術後(髄内ピン+創外固定法で治療しました)

 

  • 上腕骨骨折

↑手術前(上腕骨が骨折しています)

↑手術後(髄内ピン+創外固定法で治療しました)

  • 上腕骨骨折

まだ4か月齢と若齢で体重が1.9kgくらいの子犬ちゃんでしたが、お家のワンちゃん同士でじゃれあっていて、前足を痛めてしまったとのことで来院されました。

↑患肢の前足を挙げてしまっています

↑上腕骨の遠位の外側部が骨折しています

このタイプの骨折(関節内に発生した骨折)は、ギプス固定では治すことができず、きちんと整復固定するために手術しないと、変な形に骨が癒合してしまい歩けなくなったり、後々に関節炎が生じたりする恐れがあります。

↑なるべく成長板と関節機能に影響が出にくい位置にピンとスクリューで骨を整復して固定しました

↑手術翌日の様子。患肢を負重しています。

  • 上腕骨遠位の骨折(Y字骨折)

前足をドアに挟んでしまってから肢を着かないというワンちゃんが来院されました。「肘関節」周囲の骨が幾つかの骨片に割れて折れてしまっていました。

これは上腕骨遠位のY字骨折と呼ばれるタイプの骨折で、骨折の手術の中でも難易度が最も高いと言われています。関節面での骨折は内固定を行いきちんと整復しないと歩けるようにならないため整復手術を行いました。

↑手術前(上腕骨遠位の部位がY字に骨折しています)

↑手術前(上腕骨遠位の部位がY字に骨折しています)

↑手術後(ラグスクリュー、ピンニング、ロッキングプレート、テンションバンドワイヤー法などを用いて整復を行いました)

↑手術後のレントゲン画像

  • モンテジア骨折(尺骨骨折、肘関節脱臼)

3階から落下で来院した猫ちゃんを診察させていただいたところ前肢の尺骨に骨折、肘関節の脱臼が見られました。尺骨が骨折して橈骨が脱臼するモンテジア骨折です。

↑肘関節がほぼ完全に脱臼しており、尺骨も粉砕骨折しています

この骨折は肘の機能が著しく傷害されるため正しく整復することが重要です。手術は尺骨をプレートで固定して、橈骨は脱臼を整復した後、橈骨、上腕骨、尺骨間をスクリューとワイヤーを用いて支持固定しました。

驚異的にすごい回復力の持ち主の猫ちゃんでしたので、翌日には痛めていた肢を着いて普通に歩いており、術後3日目には退院しました。

 

  • 中手骨骨折

こちらのワンちゃんは前肢の「指」の骨が4本とも全て折れてしまっていました。このままではとても痛いですし変形して癒合してしまうと将来的に痛みが続いてしまう可能性もあるため、

髄内ピンで整復行い、外固定を行いました。

↑手術前

↑手術後

 

  • 脛骨の成長板骨折

ほとんどの脛骨近位の成長板骨折は幼若動物に発生します。骨の変位が僅かであれば、ギプスなどの外固定と運動制限で骨が癒合することもあります。しかしほとんどの症例では、経過を見ているうちに徐々に骨の位置が変位してしまうので、整復手術が必要になることが多いです。変な位置で骨が癒合(変形癒合)してしまうと膝関節の機能が損なわれてしまうため、骨折した骨を正しい位置に整復固定する必要があります。

今回のワンちゃんも3本のKワイヤーを使って整復固定を実施しました。体重が1kg台と小さく、幼若動物の脛骨高平部の骨は非常に脆弱なため繊細な手術が必要になります。

↑脛骨の成長板骨折が整復固定されました。この後、1~2か月程度で骨癒合が完了します。

 

  • 脛骨骨折

大阪の動物病院の先生からのご紹介でシェルティちゃんが来院されました。X線検査を行ったところ後肢の脛骨が骨折していました。

高いところから落ちてしまったとのこと。今回もチタン製のロッキングプレートで固定を行いました。

↑脛骨が骨折しています

↑プレートで整復固定しました

  • 脛骨骨折

20歳という高齢猫ちゃんが骨折してしまいました。高齢になると骨癒合に時間が掛かります。粉砕骨折のため今回は創外固定という方法で骨折を整復しました。

↑脛骨が粉砕して折れています(よく見ると骨に亀裂が長く入っています)

↑創外固定で固定しました

腎不全もある高齢猫ちゃんでしたので治るまでに数か月掛かりましたが、無事に骨も癒合して完治してくれました。

  • 脛骨近位部骨折

近隣の先生からのご紹介で後肢を骨折したチワワちゃんが来院されました。落下事故によって骨折してしまったそうです。
脛骨、腓骨という骨が折れており、当院で骨折の整復手術をおこないました。


後肢の脛骨近位(矢印)で骨折しており、肢が着けなくなっています。


3本のキルシュナーピンと創外固定という方法を用いて整復しました。

  • 大腿骨骨折

↑大腿骨が骨折しています

↑プレートで整復固定しました

  • 骨盤骨折

交通事故にあってしまい骨盤を骨折してしまったワンちゃんが来院されました。

レントゲン検査などを行ったところ骨盤の骨が3か所程度骨折していました。

↑内出血しており後ろ足を全く使うことができません

↑左右の腸骨など3カ所が骨折していました

↑プレート法で固定整復しました

↑プレート法で固定整復しました

↑手術後2か月目の様子。歩けるようになりました。

 

  • 大腿骨頭骨折

こちらの猫ちゃん、こたつの中に入っていたところ気づかなかった飼主様にうっかり踏まれてしまったそうです。

手術前:左の股関節部位(大腿骨頭)が骨折しています。黄色矢印


手術後:骨折部をピンで整復しました

 

  • 大腿骨骨折(18歳の猫ちゃん)

飼い主さまからお話をお伺いすると、なんと御年18歳。人間換算だと100歳に近い御歳です。

不運な事に、事故に巻き込まれてしまい太ももの骨を折ってしまったようです。

手術前:大腿骨が粉砕骨折しています

手術前:右後ろ足の大腿骨が粉砕骨折しています

手術後:ラグスクリュー4本で骨片を集めて1本の大腿骨にした後に、ロッキングプレートを外側面に、通常のプレートを前面に設置しました。

手術後

  • 肩関節脱臼(肩関節固定術)

肩関節脱臼には、先天性のものと、外傷性のものがみられます。保存療法後に再度脱臼してしまった場合や、症状が改善しない場合は外科的に治療することが必要になります。外科療法には、上腕二頭筋腱内側転位術、棘上筋腱転位術、人工靭帯による関節制動術、関節固定術などがあります。リハビリや消炎鎮痛剤投与などを続けてしばらく経過をみたものの、残念ながら運動機能が改善せず患肢を挙上し続けているため肩関節固定術を実施しました。肩関節固定術は肩関節の脱臼と不安定症の時に行われる救済的な手術方法です。肩関節を固定しても肩甲骨の動きが肩甲上腕関節の失われた動きを補うため、多くの動物では良好な運動機能を取り戻すことができます。

↑肩関節をプレートで固定しました

 

当院での再手術症例

  • 大腿骨骨折

後足を骨折してしまったため、掛かりつけの先生に骨折の整復手術をして頂いたとのこと。ただ、その後に不運なことに再度骨折してしまっている様子です。身体検査をしたところ股関節側と膝関節側にピンが飛び出してきてしまっています。レントゲン検査では、髄内ピンとワイヤー×1本で固定したところが破綻してしまっており、3つ以上にバラバラになった骨片が認められました。このまま様子をみると、癒合不全や変形癒合に陥ってしまう可能性が高いため再手術を実施しました。

↑手術前(大腿骨が骨折しています)

↑手術後(大腿骨骨折をプレート法で治療しました※再手術後)

  • 大腿骨骨折

掛かりつけの動物病院様にて大腿骨骨折の整復手術を受けられたものの、しばらくしてから骨折部の整復と固定が緩んでしまったということで、動物病院のご担当先生からご紹介頂き大腿骨骨折の再手術を行うことになりました。

↑来院時の様子。ピンで固定されていましたが、術後に緩んでしまっていました。

↑ロッキングプレートを用いて強固に整復固定を再度行いました。

  • 橈尺骨骨折

落下事故によって前足を骨折してしまった後、最初に掛かりつけの先生が手術を担当されたのですが、運が悪いことに手術後に再骨折してしまったようでした。

実はこの前足の骨折の治療はとても難しく、外固定(ギプス等)で治療した場合の変形癒合(変な形で骨がくっつく)や骨癒合不全(骨が治らない)などの合併症発生率は75%にも上ると報告されています。そのため、プレート法や創外固定などの手術方法で確実に整復と固定を行う必要があるのです。しかし、たとえプレート法を用いて固定した場合でも合併症発生率がとても高く12.5%もあるとされており、再骨折や癒合不全に陥ったりした日には、飼い主様はもちろんのこと執刀した獣医師も胃が痛くなる厄介な骨折です。

レントゲン検査を実施させて頂いたところプレート固定が破綻しており、相談の結果、飼い主様のご希望もあり当院で再度の整復手術を実施させて頂きました。

↑手術前(橈尺骨が再骨折して外反変形しています)

↑手術前(再骨折しています)

↑手術後(再手術後のレントゲン画像)

初回手術時にできた骨の孔を避けつつ、骨が脆くなった部分がカバーできるよう長めのプレートで固定しました。すでに骨の成長は完了しているため成長板に影響がでることはなさそうです。

↑再手術後(術後3週間後の様子)

初回手術時のスクリュー孔も塞がり、急速に骨癒合が認められました。

  • 橈尺骨骨折

掛かりつけの先生が初回の手術を担当されたのですが、活動性が高く運が悪いことに手術後に再骨折してしまったとのことでした。

↑髄内ピンが曲がってしまい、再骨折しています

その後、掛かりつけの先生からご紹介頂き、当院で再手術をさせて頂きました。

↑再手術後の様子。骨移植をしてチタン製のプレートで固定しました。

 

  • 橈尺骨骨折

以前、前足(橈尺骨)を骨折したトイプードルが来院されました。1年半くらい前にベッドから飛び降りて片側の前足を骨折してしまい、掛かりつけ医様で骨折の整復手術を受けられたとのこと。その後は普通に歩けるようになったそうです。

そこまでの経過は良好だったのですが、術後1年以上くらい経過してから掛かりつけ医様でみて頂いた時に「骨折した部位の骨が溶けてきている」と指摘されプレートを外されたそうです。すると、プレートを外したところの骨が脆くなっていたため(プレート下の骨には力が加わらず骨が脆くなり易い)、不運な事にその部位で再び折れてしまったのでした。

その後、3か月経過しても全く足を着くようにならないとのことで当院をご紹介頂き、再手術を実施させて頂きました。

一般的に、トイプードル、チワワ、ポメラニアンなどの超小型犬種では特に今回のようなケースが発生しやすく前肢骨折では癒合不全が生じ易いといわれており、プレート固定を用いた場合でも12.5%に合併症が発生するとの報告もあります(通常の骨折の2~3倍の発生率)。

体重も2kgくらいで、骨幅も2~5mm程度しかない場合が多いため手術が繊細で難易度が高く、癒合不全が発生しやすいので注意が必要です。

また、症例の状態や活動性なども考えて、整形外科の基本原則を守り、使用するプレートの種類や、固定の方法(髄内ピン、ギプス固定、プレート固定、創外固定など)の選択をしなければ簡単に癒合不全に陥ってしまいます。そのため実際に合併症が出るケースも多く(12.5%)、癒合不全に陥ってしまったりすると、ワンちゃん、飼主さまはもちろん、執刀した獣医師も胃が痛い日々を過ごすことになるやっかいなタイプの骨折です。

↑橈尺骨が骨折しており完全に癒合不全に陥っています

このまま固定不良の状態では経過を見ていっても悪化はしても改善することは無さそうです。当院にて再手術を実施することになりました。

↑ダブルプレート法で固定しました

前回の手術から1年間以上、再骨折してから3か月以上経過しているため、骨折部を新鮮創にして固定後、海綿骨移植とPRP(Platelet Rich Plasmaの略:多血小板血漿)、FGF(線維芽細胞増殖因子:Fibroblast Growth Factors)の投与を行いました。術後3か月ほどで骨も無事に癒合して問題ない歩様に回復してくれました。