犬の症例

犬の肩関節脱臼(ピンを用いた手術方法)

肩関節を脱臼したトイプードルちゃんが来院されました。

レントゲンを撮らせて頂くと…、

↑右肩関節(画像の左側)が脱臼しています

右肩の肩関節が脱臼してしまっていました。これではまともに歩くのは難しそうです。

 

トイプードル等のトイ犬種では、肩関節脱臼は内方脱臼(上腕骨が内側に脱臼する)の発生率が高く、手術で人工靭帯を設置したり、肩関節固定術といって上腕骨と肩甲骨をプレートでくっつけて癒合させる手術を行って治療することが多いです。

↑肩関節固定術後のレントゲン画像(別の症例)

 

ただ、今回のトイプードルちゃんはかなり高齢のため、肩関節固定術のような時間の掛かる大きな手術をするのも躊躇われるということもあり、今回はピンを上腕骨に挿入して脱臼を防止する方法で肩関節脱臼を整復する方法を選択し、手術を実施しました。

こちらのピンを使った方法は日本の獣医師の先生が考案された比較的新しい手術方法のため、恐らくあまり知られておらず獣医学の教科書にはまだ載っていないのですが、この手術方法は手術時間も短くて侵襲性が低いですし、術後成績も良さそうなので、今後は肩関節内方脱臼のトイ犬種の治療にもっと使われるようになっていくのではないかなと思います。

(※手術手技などの詳細はアメリカの獣医学雑誌に掲載されているようです。⇒https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/262/9/javma.23.11.0652.xml

 

手術手技自体は単純ではあるのですが、ちょうど良い挿入位置に角度を決めてピンを挿入するのは技術的な難易度が高いため、今回は手術前にCTスキャンで3Dのデータを撮影し、3Dプリンタで実物大の骨模型を作成して術前シュミレーションを念入りに行ってから手術を実施しました。

↑CTスキャンの3D画像。右肩が脱臼しています

 

↑CTスキャンの3Dデータを使って、3Dプリンタで実物大の骨模型を製作して、手術前のシュミレーションに利用しました。

 

手術中は、骨は皮膚や筋肉に囲まれており上の画像のように骨が直接見える訳ではなく、心の目で立体的な骨をイメージしながら手術する必要があるため、このような本人と同じサイズの実物大の骨模型はとても手術の役に立ちます。

↑ピンを上腕骨に設置しました

↑肩関節脱臼が整復されました。術後も再脱臼せず徐々に歩けるようになってきているので良かったです。

 

比較的簡易で手術時間も短くて済む手術のため、今回の子のように高齢な場合や、大きな手術は希望されない場合等には特に向いている手術方法と思われます。